CINEMA STUDIO28

2013-03-20

The Whales of August

 


岩波ホールで「八月の鯨」を観る。87年の映画。他の国ではさほどヒットしなかったのに、日本ではロングランヒットになり、あまりの反響の大きさに監督やリリアン・ギッシュから手紙が届いたとか。日本人の琴線に触れる何かがある映画なのかしらん。


有名な映画なのにこれまで観なかったのは、リリアン・ギッシュのためであって、リリアン・ギッシュのせいでもあって、リリアン・ギッシュの映画ってどうしても借りてきて家で観る気分にならない。リリアン・ギッシュと、映画そのものへの敬意を自分なりに表明するためにスクリーンで出会えるタイミングを待ってしまう。リリアン・ギッシュとの初対面だった「散りゆく花」が京都みなみ会館での活弁つき豪華上映だったからかな。観ていた私は10代だった。最近では、2011年、毎年楽しみにしてる本郷中央教会での「聖なる夜の上映会」で観た「東への道」!いろんなことがあった年だから、ヒロインが苦難を乗り越える映画を、と選ばれたあの映画の、ずいぶん寒そうな土地で苦難に耐えるリリアン・ギッシュの小さな身体。


存在そのものが映画の歴史であるようなひとりの女優が91歳になったとき、どのような身体で表情で仕草なのか。が、フィルムに捉えられているのを観ただけで、もう胸がいっぱいになってしまう。髪が白くなり、皺皺になってもリリアン・ギッシュはやっぱりとびきり可憐。監督も、そうだリリアン・ギッシュに演ってもらおう!って考えてOKもらえた時は嬉しかっただろうなあ。リリアン・ギッシュがただ映ってるだけで、じゅうぶんに映画なのだから、映画って演技っていったい何なんだろ?ってスクリーン眺めながら陶然とするしかない。


メイン州の小さな島、夏の2日間、半径数十メートルのちいさな物語。もともとが舞台劇だったらしく、やや唐突に煌めいた言葉が差し込まれるのだけど、年輩の方とお話すると、こういう感じでやや唐突に煌めいた言葉が差し込まれることってあるよなあ。

「人生の半分は面倒ごと、残りの半分はそれを乗り越えるためにある」

「月が波間に銀貨をばらまいています。あれは決して使えない宝です」
(この台詞を言うロシア亡命貴族の男は、周りの女をそわそわさせる存在だが、釣りの場面でも蝶ネクタイで着飾り、女の服装を盛大に褒め、ディナーには花を摘んで参上し、傷つけられても女を非難することはない。「女をそわそわさせる男」の基本を丁寧におさえ、なおかつ年期が入った見事な老紳士であった)

「白は真実、赤は情熱、人生に必要なのはこの2つね」
(1日の3度めの着替えをし、ブルーのシルクのドレスで着飾り、白の薔薇と赤の薔薇をテーブルに用意し、ひとりで自分の結婚記念日を静かに祝うリリアン・ギッシュ!視力の落ちた姉が薔薇を2本、指で触って結婚記念日おめでとう。と言う場面も良かった)


あと何十年か後に、また観る機会がありますように。