CINEMA STUDIO28

2015-07-11

やっちゃ場の女

 
 
若尾文子映画祭、私の1本目。1962年のカラー映画「やっちゃ場の女」。
 
 
あらすじを記録。「"やっちゃ場"の娘たちは、今日も恋に仕事に大忙し!60年代の活気あふれる築地や銀座を舞台に、青果市場・やっちゃ場の仲買商・八百新の美人姉妹の青春をわさやかにコミカルに描く。長女でしっかり者の跡取り・ゆき子役若尾、妹のおきゃんな銀座OL早苗役・叶のモダンなファッションも見どころ。」監督は木村恵吾。若尾文子と叶順子が姉妹、奉公人に藤巻潤、若尾文子のお見合い相手に宇津井健。
 
 
ロビーに貼られてたポスターのコピーは「男まさりと云われるよりも、ホントは好きと云われたい!」
 
 
あらすじには八百新とあるのだけど、小田新じゃなかったかな…?うろ覚え。代々続く果物の仲買商の家で、父親が外に女をつくっていなくなり、母親は身体が弱り、長女の若尾文子が何代目かとして男まさりに築地市場をキビキビ動き回る場面から始まる。心臓が悪いのか薬を飲みながらも、こっそり隠した一升瓶から湯呑みに注いで飲む母親が、突然亡くなり、葬式の場面が長く続く。この場面が見事で、ダラダラ長い場面のように思えるのだけど、家族構成、それぞれの職業、性格、関係、親戚関係、家の間取り、お手伝いさんが何人かいること、出て行った父親とその愛人、家の立地(築地の近く?)…など、物語の展開に必要な要素を、葬式の流れを追いながらさりげなく説明していく。例えば仕出しの料理が足りないから寿司でもとりましょうか…と誰かがいえば、お手伝いさんが、◯◯寿司、もう寝ました。◯◯寿司、夜逃げしました。と近所の寿司屋の様子を知らせる。築地界隈は朝が早いから寿司屋の店じまいも早いのね…など、想像させながら葬式は進んでいく。長唄の師匠のような人がが参列していたのか、弔いに一曲唄う声を聴きながら、裏側ではバタバタと若尾文子が段取りに走り回っていたり。
 
 
 
妹がOLとして出勤する銀座界隈(「近いからってタクシーで通っちゃダメよ」というセリフあり)は、若尾文子がその後、お見合いする場所でもあり、お見合い相手の宇津井健が働く場所でもある。ロケで撮られた60年代初めの銀座のビルの高さが低くて空がよく見えること。あちこちで道路工事してて、これから高度成長!という盛り上がりを街に感じる。叶順子は着道楽で、両国の花火の日に来ていたフィット&フレアのワンピース、可愛かったな。落ち着いた若尾文子とは対照的に、いかにも妹キャラとして描かれるのも面白い。
 
 
物語としては花火の夜がクライマックスで、誰もいなくなった家で、物干し台に上って花火を観る若尾文子と藤巻潤の場面が良かった。花火は映らずに、2人の背景の夜空の色の変化で花火の色を想像する。高いビルが建ってしまって、物干し台のある家も少なくなったのだろう今観ると、贅沢なファンタジーのような花見見物。
 
 
最後、築地市場の角で、銀座帰りの若尾文子が、お冷一杯頼んで立ったままぐっと飲み、「小田新ね」とツケを頼んでさっと去っていくの、思い出してみれば、冒頭、母親が隠した日本酒を湯呑みで飲んでた場面と重なって、その後の長女の運命を示唆するようなエンディング。
 
 
この映画、観ている間は、ちょっと間延びしてるな…など思いながらも楽しく観たのだけど、後から振り返ると演出の細やかさに気づく。若尾文子映画祭、ラインナップが豪華で埋もれがちな映画かもしれないけど、メジャーなものはこれからも観る機会はあるだろうから、これまで観なかったものを観る方針で選んでみたら発掘できた1本。1本目からこの満足度、私の若尾文子映画祭、幸先いい!