CINEMA STUDIO28

2015-07-01

EDEN




フランス映画祭4本目。ミア・ハンセン=ラヴ監督「EDEN」。


あらすじを引用すると、「90年代フランス、エレクトロ・ミュージックが台頭する中、ポールはエキサイティングなパリのナイトクラブでのDJとしての一歩を踏み出していた。彼は親友と「Cheers」と呼ばれるデュオをつくる瞬く間にオーディエンスの人気を得ていく。「EDEN」はフレンチ・ハウスの世界的成功と、Daft Punk、Dimitri from Paris、Cassius のようなミュージシャンを代表とする”フレンチタッチ”ジェネレーションの軌跡を背景に、ひとりのDJの成功と挫折、愛と友情を描く。」


これらの音楽に興味がある、その頃そんな音楽ばかり聴いてた、遅れてきた世代だけどその頃の音楽が好き、という人であれば、ひたすら好みの音楽が流れていて幸せ、という映画体験になるのだろう。EDENで描かれる内容にさっぱり興味のない私がこの映画をわざわざ観たのは、ミア・ハンセン=ラヴの映画、素晴らしかったな、という記憶が残ってたから。今年のフランス映画祭は、あの監督の話題の新作、という映画が多く、結果的に粒ぞろいだったのだけど、私はこの映画は、ミア・ハンセン=ラヴの新作なら、どんな物語でも観たい、という動機で観た。


映画の何割かは「その音楽を好きなこと」が前提に成り立ってて、その部分は、きっと自分は退屈するだろう、と観る前から思ってて、実際そうだった。しょっちゅう映される「さして興味のない音楽に熱狂する群衆」を眺めることほど、退屈なことってそうそうない。楽しそうに騒ぐ他人を醒めた目で眺める、前半はそんな気分になることが多く、退場しそうになるのを、ミアの映画だもの、つまらないはずがない、ミアはできる子!とスクリーンに修造ばりの暑苦しい念を送り続ける。






主人公ポールとその周辺の群像劇。プロデューサー役にヴァンサン・マケーニュ(「女っ気なし」の彼)、ポールがつきあっては別れる恋人たちも、グレタ・ガーヴィグ(フランシス・ハ!の彼女)、ゴルシフテ・ファラハニ(「彼女が消えた浜辺」の彼女)、ローラ・スメット(ナタリー・バイの娘さん)など豪華。そんな人々に囲まれて、ポールの音楽は徐々に下火になり、借金は膨らみ、薬に溺れ・・・そんな展開が始まったあたりから、映画の色は変わり始め、音楽の比重は高いけどあくまで素材で、普遍的な青春の物語、DJ青春残酷物語なのだな、と思った途端に俄然、面白くなってきた。振り返ってみるとポーリーヌ・エチエンヌのポールといる時の寄る辺のない感じ、彼女もDJ残酷物語の主要な一部なのだけど、その後にとる現実的な選択の描き方がいい。そして物語の転換にはDaft Punkの音楽が使われていた。


ラストに登場するロバート・クリーリーの詩は、この物語のために書かれたのかと思うほど、少ない言葉で「EDEN」を総括しており、最後を詩に担わせるのってどうなのかな。と思ったけれど、「気狂いピエロ」しかり、詩で映画を閉じるのはフランス映画の伝統・・・かもしれない。ポールがその中にいたムーヴメントは終わったとしても、彼の人生が終わるわけではない。始まって終わって始まって終わって、誰でもそんなリズムの中にいる。


Q&Aに登壇したのは、脚本に参加し、主人公ポールのモデルだというスヴェン・ハンセン=ラヴ。監督の実のお兄さん。ポール役のフェリックス・ド・ジヴリは俳優専業ではなく、レコードレーベルを主宰し、イベントを企画し、ファッションブランドも始める予定でELLE FRANCE「フランスを動かす50人」に選ばれた若者とのこと。本人が、え?そんなのに選ばれてるの?知らなかった。って言ってたのが良かった。





・(ロバート・クリーリーの詩の引用について)ミアの映画はいつも、過ぎゆく時をテーマにしている。ロバート・クリーリーのあの詩は、リズムについて書かれており、リズムといっても音楽だけではなく、人生のリズム、またリズムが変化していくことでもある。


・(グレタ・ガーヴィグの起用について)エージェントを通してオファーした時は、彼女はもうスターだったから役が小さすぎると言われたけど、グレタ自身がミアの映画のファンで、やりたいと言ってくれた。グレタの軽さ、面白さが映画に温かみを与えてくれていると思う。


・(スヴェン自身がポールのモデルであることについて)ミアが音楽と90年代の若者たちについての映画を撮りたいと考え、たまたま自分がそのシーンにいたので協力を持ちかけられて、経験を語るうちに、一緒に脚本を書くことになった。


・(ポール役の起用について)フェリックスはオーディションで選ばれた。演技だけではなく、当時の若者の中にあったエネルギーがあり、音楽に詳しかった。音楽に詳しくない人を起用しようとは思っていなかったので。


・(観客から、年齢を重ねた自分からは主人公たちは「痛い」ように見えるのだが、どう思うか?)これは成功と失敗の映画ではなく、夢に立ち向かう困難さにどこまで抵抗していけるかを描いた映画だと思う。失敗か成功かを決めるのは世間であって、自分の目的に対してどこまで進めるか。(フェリックスは)演じていて、心配性ではないので、違和感はなかった。


・(フランス映画は過去の作家主義的な作品は最近少なく、生々しい映画が増えているが?)フランスが難しい時代を生きているから、映画もそうなる、ということだと思います。


そしてフランス映画について、フェリックスはアルノー・デプレシャンの新作、スヴェンはアラン・キャバリエ監督の初期の作品が素晴らしく、評価も高いことを紹介し、機会があれば是非観てほしい、と語ってQ&A終了。



私は特定の誰か、国、文化、ムーヴメントに強くかぶれた経験がないので、このような映画は、自分にない熱を持った人たちの行動記録として興味がある。邦題もそのまま「エデン」。変な邦題つけられなくて、良かったですね。9月から公開とのこと。