CINEMA STUDIO28

2016-01-11

Don't bother to knock

 
 
年末年始恒例、シネマヴェーラの映画史上の名作特集は、通えないまま終わってしまいそう。ルビッチやスタージェスの映画がない今回、楽しみにしていたのはモンロー主演「ノックは無用」だったのだけど、見逃したので家でDVDで。かつてDVDで観たことはあって、未だ映画館では観たことがない。
 
 
1952年の映画。ホテルの回転ドアを通ってモンローが入ってくる。顔見知り(後に叔父とわかる)のエレベーター係の口聞きで、式典のため留守にする夫婦の部屋に残される少女の子守りとして紹介される。モンローが心を病んでいることが徐々に明らかになり…。密室もの、サイコサスペンスだけど、サスペンス部分はさしてドキドキもせず、素材は揃ってるのに料理人の腕が今ひとつ…なところはヒッチコックが撮ってたらな、と思うけど、ヒッチコックはきっとモンローには興味なさそう。しかしモンロー映画を観る時、私は8割がたモンローを注視することに集中しているので、細部の甘さはさして気にならない。
 
 
「お熱いのがお好き」や「7年目の浮気」の役柄のイメージからか、モンローといえばちょっと頭は足りないけどキュートさ3000%の女、というイメージは強いのだろうけど、私は「ナイアガラ」やこの「ノックは無用」など暗くて影のあるモンローも好きで、とりわけ「ノックは無用」の神経症的な演技は素晴らしい。回転ドアを通って物語に登場する場面から目は虚ろ、歩き方もぎこちなく、服装は地味な上に手ぶらなのが不気味さを増幅している。終始、肉体を誇示する素振りはなく、彼女の肉体や顔、それらが周囲に与える影響が物語の中心に据えられていない珍しいモンロー映画。モンローが心を病む原因が、パイロットだったらしい恋人の死によるもので、空軍を除隊した後のアメリカの青年は他にできることがなくて消去法的にパイロットになった…という設定、52年って戦後さほど時間が経ってないものね。窓辺で身を乗り出す少女の背中に手を添える場面、「ローズマリーの赤ちゃん」の電話ボックスの場面(好き!)ばりに緊張した。
 
 
この映画のモンローを興味深く観るのは、不安定なエピソードばかり目にするモンロー自身の晩年に重ねるからだろう。本当はこんな人だったのではないかしら、という欠片を表情や仕草のあちこちから勝手に見つけ出してしまうけれど、もちろんただの邪推に過ぎない。