CINEMA STUDIO28

2016-07-31

La pagode



今日撮った写真、うまく取り込めずに消えてしまった(涙)。選挙、映画、フィルムセンターなどなどの7月最終日。


必要に迫られて古い写真をチェックしていたのだけど、ユニークな映画館の思い出、何年経って見返しても楽しい。パリ左岸、世界最古の百貨店ことボンマルシェからほど近く、La pagodeという映画館の内庭。うろ覚えなのだけど、東洋寺院をボンマルシェの社長が買い取って、奥さんにプレゼントしたという豪勢さで、映画館をプレゼントしてくれる人なんて最高だな!と思ったけど、当時は社交サロンのように使われ、映画館化したのはその後らしい。確か2スクリーンあって、1つがsalle japonaise(日本間)と呼ばれており…観たい映画を選んだら、salle japonaiseでかかってたので入れて嬉しかった。そのsalle japonaiseというのが…





こんなギラッとゴテっとしたゴールデンなエキゾチック内装で…どこが日本間…西洋人のざっくりした東洋認識よ…と思ったもの。不思議な無国籍空間でマルジャン・サトラピ「ペルセポリス」を観たのだった。


La pagodeについての短いドキュメンタリー発見。


2016-07-30

dustless chalk




アテネ・フランセ、外装は変わらないけど、内装はずいぶん近代化した。壁の一部にカラフルな何かが見えたので近づいてみたら、チョーク棚だった。チョーク、教室内に備えておいてもいいのに、わざわざ壁に埋め込まれているのが面白い。教室の中は覗かなかったけど近代化したのは外だけで、中はあいかわらず黒板なのだな。



実に9年ぶりにジャン・ユスターシュ「ママと娼婦」を鑑賞。



220分の長丁場なので、途中休憩が挟まれるだろうと思っていたら予想の反してノンストップだった。この映画、最初に観たのはVHS時代、借りてきて部屋のテレビデオで。夜中に一人観ていたら画面に吸い込まれそうに、徐々に三角座りになってシリアスな表情で見終えたのだけど、映画館で観るのは9年前のパリ、そして今日の東京と2度目で、他の観客と一緒だとクスクス笑いながら観てしまうのは何故かしら。久しぶりの「ママと娼婦」、なんだか別の顔に見えたのは、経過した年月のせいだろうか。

2016-07-29

積みたくて




買おうかな、と考えていたバッグ、伊勢丹まで見に行く心の余裕を失ってるうちに情熱を失った。代わりに、というわけではないけど、無印にフイルム缶が売られている!?という情報を得て、FOUND MUJIまで見に行った。


BOX 2という特集で。働く箱。


http://www.muji.net/foundmuji/2016/06/222-box-2.html


リーフレット(PDF)


映画産業や映画フイルムを支える映画フイルム専用の保存缶は、国産映画フイルム発祥の地、神奈川県南足柄市の専門の製造会社でつくられています。この映画用フイルム保存缶は、国産フイルムと共に歩み、日々、進化をしてきました。遮光性、耐衝撃性、防錆に優れ、適度な通気性を持ったフイルム缶は、現像前のフイルムの感光を防ぎ、現像されたフイルムが上映に至るまでの流通、保管に欠かせない容器です。映画制作のデジタル化が進む中、フイルムにこだわって制作するつくり手も絶えることはありません。また、100年以上にわたる映画の歴史の中でつくられてきた膨大な数の映画フイルムは文化遺産とも言え、これからも大切に保管されていきます。暗室での作業の不自由さを少しでも軽減するよう、プレス機の微細なカスタマイズによって開けやすく閉めやすい繊細な設計。小さな16mmフイルム用の缶は、転がって暗室内で紛失しないよう角型となっています。映画フイルムという限定された用途のために工夫を凝らされた缶は、写真や紙もの、小物などの保管や整理にも役立ちます。(フイルム=映画用、フィルム=写真用、と専門家の中では区別されています。)


角型の中・小は品切れしていたので入荷連絡をお願いする。使わないモノは買わない買い物合理主義の私は、この買い物も少し躊躇したのだけど、部屋に重ねて置いているだけでニヤニヤするし、使い途もいくつかひらめいた。バッグの何十分の1かの値段で、良い買い物をしたわ…。そして現在、買い物合理主義の自分は積み上げたい欲求と戦っている。





だって、フイルム缶って積まれてる光景が一番かっこいいもの。ねぇ、トリュフォー(写真に話しかける)。使わないモノを買わないってだけで、積み上げるほど買っても使えばいいのよね。FOUND MUJIの会期中考えよう。


特集上映の入れ替え前など、届いたばかりと思わしきフイルム缶が映画館の階段に無造作に積まれるのを時折見かけたことも、そのうちノスタルジーになるのだろう。ここ数年で高揚した思い出は、追悼特集が始まる前、ユーロスペースの階段に積まれたロメール映画のフイルム缶。この中に私が観たいものが詰まってる!って近寄ってちょっと触ったりした。

2016-07-28

2016/7/28



この間まで不気味なほど眠っていたかと思えば、ここのところ上手く寝付けない。睡眠が不得手。



「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」のリバイバル、チラシのデザインが素敵でもらってきたのだけど、これまで何度も観たから、今回は見送りでいいかな、と思っていたら、字幕が新訳と知って興味を煽られている。短いながら金言に溢れたこちらのインタビューを読んだ。去年のルビッチ特集、シネマヴヴェーラがつけたと思われる新訳に、超かわいい!だったっけな、そんな言い回しがあってびっくり。


http://casabrutus.com/culture/23735

2016-07-27

2016/7/27




帰宅して、さーあれもこれもやるぞ!メールも書くぞ!と思っていたら、「FAKE」に関して、森達也監督とTVディレクター達が登壇するトークイベントが今、ユーロであるようで、行きたかった…と思えばLINE LIVEというアプリで中継されている(20:44現在も放映中)。21世紀、便利!



「FAKE」、あの騒動をまず月刊誌や週刊誌が取り上げたとはいえ、拡散したのはテレビだったはずだから、こういう内容こそ映画館じゃなくテレビで放映するべきだよな、と思って観ていたので、そうは言っても難しいよね…という裏事情を聞けて面白い。わかりにくい、ということがテレビにとっては悪で、誰にでもわかるように、の基準が「足立区のおばちゃんでもわかるように」という表現で語られていて笑ってしまった。わかりやすさを追い求めるあまり「FAKE」のような観客のリテラシーに委ねるようなものがテレビで難しい…といっても、パッとテレビつけたらやってた、みたいな気軽な番組が何も問いかけてくれないからリテラシーが低下する…ってことなのでは、と思うけど、裏事情が色々あるのだろうなぁ。


片目で視聴しながら、同時に何かする…というには刺激的すぎて困るわ。



*21時すぎ、笑って観てるうちに生配信終わり。「FAKE」にちなんで、ケーキが登壇者に出されて小休止タイムだった。来場者には豆乳が配られたらしい。悪ふざけがすぎるわ…


LINE LIVEはこちら(生配信終わったけど録画が観られるっぽい?)
https://live.line.me/r/channels/76/broadcast/7263


配信が終わった後の続きはこちらで後日観られるみたい。
http://www.dogapipo.com/


森達也監督の声って、芯がくにゃっとして、人を油断させる成分が含まれていて、ちょっと優し恐ろしい。

2016-07-26

Desire,1936




ディートリッヒ続きで思い出した、



去年のルビッチ特集で観た「真珠の頚飾」(原題 Desire/1936)、監督はフランク・ボーゼージで、製作がルビッチ。ディートリッヒが逃亡する真珠泥棒、ゲイリー・クーパーがウキウキとヴァカンスを過ごしているのに逃亡に巻き込まれる…というドタバタものだったけど、スクリューボールコメディと呼ぶにはスクリュー度合が足りず、テンポも良くなくて冗長な場面がたくさんあった記憶。など、辛めに観てしまうのは、その前にざぶざぶルビッチを浴びてしまったからなのだった。ルビッチならそのセリフ削るね!などルビッチならどうする?と自分に問いかけながら観てしまったし、泥棒ものといえば「極楽特急」を思い出してしまう。ディートリッヒが出てるとはいえ、「極楽特急」以上に極楽な泥棒ものなんてこの世にあるの?!と、どうも分が悪くなる。ルビッチ特集ではなく、別の特集で観ていればもっと楽しめたのだろうなぁ。


しかしトラヴィス・バントンの衣装っぷりは「天使」よりも上だったかもしれない。




それまで折にふれて見かけていたこれぞディートリッヒのイメージ!という衣装の多くは、この映画だったのだなぁと思うほど期待を裏切らない。惜しむらくはディートリッヒを着飾らせるあまり背景から浮いてしまう場面がいくつかあったことで、逃亡劇だから通過するのは都市部だけではなく、え?こんな素朴な場所でもいつものディートリッヒなの?とTPOを外しているような場面があったように記憶。衣装が素朴でもあの眉毛であのスタイルである以上、田舎の景色とディートリッヒは水と油。「ナイアガラ」を観た時、他の女たちはみんなコットンのドレスにサンダルでいるような大自然観光地なのに、モンローがいつもの露出度の高いシルクっぽい光沢素材のドレスにピンヒールだったことを思い出す。あの映画の場合、周囲から浮く役だから、役に似合ってたとは言えるのだけど。

2016-07-25

before/after



「天使」にも出ているルビッチ俳優、ハーバート・マーシャルが好きなのだけど、「天使」はしかしディートリッヒの映画だな、と思う。ディートリッヒはあの映画あまり好きじゃなくて、ルビッチのこと「あのベルリン野郎!」って言ったとか言わないとか何かで読んだけど、何が気に食わなかったのかしら。ベルリン野郎!ってなかなかパンチ効いてる。


ディートリッヒといえば、衣装:トラヴィス・バントンの威力たるや、とスタッフのクレジットにトラヴィス・バントンの名前を探す。ハリウッドに招かれる前、ベルリン時代のディートリッヒの写真を見て、え!と思ったのだけど、




え!別人!海辺で連れているのはディートリッヒの娘とのこと。このディートリッヒが、




こう化けるのだから、女性の美の潜在能力とは。そしてハリウッド・マジックって…と言葉を失わずにいられない。



日本人好みのカワイイ要素皆無のヨーロッパの香り漂う大人の女のイメージゆえか、ディートリッヒの美しさについて触れられてるのをあまり読んだことがない気がする。私がその魅力に開眼したのは、「情婦」をスクリーンで観た時で、その後調べてみると、当時ディートリッヒは50代後半だった事実を知ってから。ずんぐりしたベルリンのママがゴージャスな女優に変身した後は、若作りするでもなく、しかしパブリックイメージを保ちつつ年齢相応の迫力を増していた「情婦」のディートリッヒ、記憶が薄れてるから、久しぶりに観たいな。

2016-07-24

morning Lubitsch




早朝に目が覚め、また眠る気配がないので起き上がり、家事をひととおり片付けても7時前。そのまま借りていたルビッチ「天使」を観始めた。モーニング・ルビッチ。



90分ほどの短い映画なのに、よくぞこれだけの情報量を、よくぞそれだけ省略して。確か「天国は待ってくれる」はルビッチ唯一のカラー作品だったと思うのだけど、あの映画を観ている間、ブラウスの色!髪の色!瞳の色!椅子の色!とモノクロルビッチの情報量に色の情報がプラスされた膨大な情報量を頭がひとときに処理できなかった。モノクロ映画が好きなのは、自分で好きに色塗りできるからというのも理由のひとつで、「天国は待ってくれる」は、そのドレス素敵だけど、色は好きじゃないな…など、思てたんとちゃう案件の多さにも戸惑った。


「天使」も何度目かわからない鑑賞回数の今回ようやく気づくことも多く、恋患うメルヴィン・ダグラスのベッドの灰皿が吸殻でいっぱいなのはこれまで気づいていたけど、ベッドサイドのランプが点いたまま、という表現にようやく気づく。眠れずに一晩中起きてたのね。ピアノで奏でられる思い出の曲を、置かれたままの受話器越しに聴いたのはハーバート・マーシャルと思い込んでいたし、おそらくそうだと思うのだけど、映画の中では答え合わせされず省略されていることにも気づく。


パリの妖しく高貴な社交サロンは「ロシアサロン」という名前で、夫の付き人たちがロシア人はマナーがどうこう、と裏でひそひそ話す会話と何かしらリンクした設定なのだろうか。そう考えると「ニノチカ」然り、ルビッチのロシア観とは、など考えながら観ていると…頭がぐわんと稼働し、すっかり目が覚めた。






強い照明でつけまつげの影が終始ディートリッヒの目元に落ちる。完璧に塗られた濃色口紅、120%フルメイクで眠る女…ナチュラル感もリアリティも皆無、ひたすらよくできた虚構を朝から堪能。



ルビッチ、しっかりしたファンサイトがあって、時々チェックしてる。youtubeをピックアップしたscreening roomがクラシカルな映画館デザインなのが素敵。「生活の設計」のwall paperを設定してみたら、ミリアム・ホプキンスの顔が怖い。


http://www.lubitsch.com/

2016-07-23

2016/7/23



先日、打ち合わせに行った場所からオリンピック競技場の更地がよく見え、人が揃うまでの間、物珍しくて写真を撮らせてもらった。ここで働く人たちは日に日に競技場が出来上がっていくのを定点観測するんですね、と言った。


昨日の世界最速?ネット回線に続き、今日は注文していた複合機を受けとり、PCに向かう私の背のあたりに配置した。環境を整える作業はこれでひとまず終わったかな。長らくプリントアウトの必要を感じていなかったから、前にプリンタを持っていたのは、たくさん書いてたくさん提出する必要のあった頃…と思い出してみると、もう10年前だった。10年の間にプリンタは小型化し、さらに大きさを感じさせないデザインが研究され、何もかも快適に進化を遂げ、価格もずいぶん下がった。10年でこんなに変わるのだ、そして10年はあっという間に過ぎる。競技場なんて、あっけなく建つのだろう。



先日トークを聞いた写真家の女性は、自然光で、カメラの設定もオートで、三脚も使わず、ビックカメラでフィルムを買いビックカメラで現像するとのことで、写真の素晴らしさからもっと大仰でこだわりの撮影をイメージしていたので意表を突かれた。あるものでなんとか工夫する姿勢は女の料理って感じだな。と思ったことを、朝日新聞webで週末掲載されるのを楽しみにしている西川美和監督のエッセイを読んで思い出した。男がたまにやる料理。


http://www.asahi.com/articles/DA3S12471047.html
*全文を読むには登録(無料)が必要です

2016-07-22

2016/7/22




帰り道、今夜はいつにも増してスマホを見ながら歩いてる人が多いなぁ…と、信号待ちで前にいたワイシャツ姿の男性がポケモンGOの画面を見ていたので、おお…!と思った。ゲームのこともポケモンのことも何一つ知らない(黄色い可愛い子がピカチュウ、というのだけ知ってる)私でも、どれどれ…とダウンロードしてみたのだから、流行の威力ってやつは。


何年か前にフレッツ光を解約してから、ネット回線契約をしてこなかったのだけど、必要に迫られ再び契約することに。しかしフレッツをもう一度はちょっと癪だな…と考えていたら、NURO光という世界最速回線?の対象エリアで、速い上にフレッツより安いという最適解に至った。屋外工事に来てもらい無事開通。繋げてみると…速い!!これまでは何だったのかという速さ。21世紀、速さこそ正義。滞っていたあれこれが一気に片付きそう。捗る。


動画もサクサク動くので、trouble in paradise で検索して「極楽特急」をチラ見しながら作業できる幸せを噛みしめる。30年代のエレガンスを21世紀の便利さで享受。自分の映画がこんなふうに観られるなんて、ルビッチはきっと、想像しなかっただろうな。

2016-07-21

2016/7/21




週末に観たウルグアイ映画「映画よ、さようなら」のパンフレットが面白い。ウルグアイにあるシネマテークを舞台にしたこの映画はフィクションだけど、シネマテークは実在する。そこはどんなシネマテークかの紹介が掲載されている。映画を上映する施設についての紹介で、私にとって最もイメージしやすく楽しいのは、どんな映画がかかってる場所なのかということ。これから一生訪れることもないかもしれない街の映画館の上映スケジュールを眺め、そこで映画を観る人々を妄想するのが趣味…同じ趣味を持つ人は、この世にいるのかしら。


ウルグアイのシネマテークで特筆すべきは、”Pronto, listas,ya!”という企画で、曰く「世界一長い上映企画」。なんと映画ベスト1000を考え、着々と上映していく企画。今年6月の上映で第65回、残りあと300本余りとなり、次の1000本企画を考え中とのこと。誰がどういう基準で1000本選んだのかは不明だけど、シネマテークのスタッフが選んだとしても恐ろしく広大な企画だし、それを順次上映しているという気長さよ。熱心な、もしや1000本征覇する強者の観客などいるのかしら。もしいるのなら、何か記念品贈呈するというより、次の1000本企画の選考スタッフに加えるというのはいかがかしら。



上映企画以外に、映画鑑賞料金や上映開始時間も網羅してあって、私の妄想欲求を十全に満たす、素晴らしいパンフレット。

2016-07-20

2016/7/20



今週は移動中、是枝監督の対談集「世界といまを考える1」を読んでいる。西川美和監督との師弟対談目当てだけど、あちこちでの映画監督、俳優、脚本家たちとの対談の寄せ集めでどれも面白い。古いものでは99年のジャ・ジャンクーとの対談、写真もあって2人とも若い…! 初々しい内容よりつやつやした肌の2人に釘付け。



今日はジュリエット・ビノシュとの対談を読みながら移動。キアロスタミ女優でもあるところのビノシュによるキアロスタミ・エピソードが披露される。曰く、もともと面識のあったビノシュは、キアロスタミからテヘランに遊びにおいでと再三言われており、ついに腰を上げてビザを取得し空港に降り立ったら何故か報道陣に取り囲まれ、キアロスタミと2人で取材を受けて説明する羽目になった。何故プライベートなお友達訪問が公然の騒ぎになったか。同じ飛行機にジャーナリストが同乗していてそこから地上にビノシュが来るぞ!と連絡があったのでは説があったらしいのだけど、当初は存在しなかった映画の企画を、既成事実的に進めるためにキアロスタミがとぼけたふりして全て仕組んだのではないか…という説も。恐ろしい男や…。何もかも映画みたい。



そして私の大好きな「トスカーナの贋作」の誕生秘話。監督がビノシュに自分自身のエピソードとして、「イタリアで知り合った女性が自分(キアロスタミ)のことを夫だと思って演技を始めた」ことを話し始め、ブラジャーをどう外したかまで詳細に長々と話した後、「僕の言ったこと、信じる?」と聞かれたビノシュが「信じるわ」と返事すると、「実は全部嘘なんだ」とキアロスタミが言い、そしてあの映画が生まれた…とのこと。狐につままれたようなあの映画は、生まれた時から虚実入り混じっていたのだな、その意味では筋が通ってる。そして監督たち、俳優たちが語るエピソードを読むにつれ、キアロスタミの映画をもう、子供たちの自然な演技が素晴らしい!などと無邪気に観ることはないのだな、と遠い目で思う。

2016-07-19

ちらしみ




春はさほど眠くなかったように思うけど、このところ、狂おしく眠い。季節だけではなく、あれこれの変わり目は眠気が増す、という説があるけど、ほんとかな?連休は「河口」と、もう1本映画を観たほかは、8月初頭までに片付けなければならない物事の多さに怖気づき家に篭り、それらを片付ける…前に、部屋を片付けた。よい心がけ。



もう1本観たのは「映画よ、さようなら」というウルグアイの映画。フィルムセンターでチラシをもらい、ジャケ買いならぬチラシ観(ちらしみ:チラシに惹かれて映画を観に行くこと)、私にとってはよくある行動に至った。どうやって映画の上映情報を得ているのか時々聞かれるけど、チラシです。と答えると驚かれる。アナログすぎるのかしら。ちなみに前田敦子さんはポスターの雰囲気で決めるらしく、予告篇は映画の情報が観る前から入りすぎるから避けたくて、映画館でも予告篇の間はロビーで飲み物を選んだりして、本篇が始まる直前に着席するらしい。


何十年も前の映画であれば年月の間に、あちゃ!という映画は淘汰され、現在それが観られるというだけで様々な人がそれを好んで守ってきたおかげであるとして、新作映画は蓋を開けてみるまでどんな具合かわからない…というのが博打みたいで好き。「映画よ、さようなら」博打は大当たりで思わずパンフレットも買った。ウルグアイの映画をこの先観る機会があるかもわからないけどウルグアイの映画環境に興味を持ったし、この映画についてもまとまった文章はパンフレットでしか読めない気がして。


http://www.action-inc.co.jp/vida/


映画の感想は、パンフレットを読み終わったら。

2016-07-18

my best…




映画自体が面白いかどうかも大事だし、出演する俳優たちのフィルモグラフィの中でも好みかどうかも大事。「河口」は呆然としつつも面白い映画だったけど、山村聰、岡田茉莉子映画の中では、それぞれ別に好みがある。my best H.K.(Hiroshi Kawaguchi)をいつも探しているように、どの俳優でもmy bestを探してしまう。


my best山村聰としてしまって良いのかわからないけど、「東京物語」の長男役の強い印象を払拭したのは、去年、若尾文子映画祭で観た「家庭の事情」(吉村公三郎監督/大映/1962年)。男やもめで娘4人を育てあげた山村聰が退職金を4分割して娘に渡し、これで子育て終了だ、それぞれ好きに使いなさい!と自由宣言する物語。脚本は新藤兼人。この時代の定年は55歳だったのね…ということに加えて、晴れて自由を手に入れた山村聰が行きつけの飲み屋の女将から押し倒されん勢いで迫られ、山村聰もまんざらでもなく、繁華街の和風連れ込み旅館に雪崩れ込むのだけど、この旅館のセットが、鈴木清順映画(美術:木村威夫)か?というキッチュさ。浅草の仲見世に並ぶ外国人用チープ和風土産屋のようなセットだった。藤間紫のねっとりした台詞回しもあいまって強烈でこの映画の他の印象が霞む。川口浩も出てたのに…。


山村聰って、奈良生まれだったのね。同郷!これから奈良生まれって誰がいるのさ?話には、明石家さんま、堂本剛に加えて、山村聰と言うことにしよう。誰に通じるというのか…。





そして岡田茉莉子。「秋日和」は大好きだし、「河口」のファッションも素晴らしかった。目が強くて、きゅっと顎が尖ってて、首から肩にかけてのラインが美しいから、かぶりものが似合う。「秋日和」の紫陽花ヘッドドレスがアホの子にならないのは(ちょっとなってるかも…)かぶりもののインパクトに美しさが負けていないからかな。


しかしmy best岡田茉莉子は今のところ、「妻二人」(増村保造監督/大映/1967年)。上昇志向の強い非情な男が政略結婚的に若尾文子を選び、岡田茉莉子は棄てられるのだけど、月日が経った後の酒場でのふたりの再会場面の岡田茉莉子がもう、これぞ宿命の女!!!!!と誰をも納得させるカメラワークで撮られている。選ばれなかった女という役柄も、劣情をそそるってこういうことかな?と翳りが美しさに拍車をかけている。若尾文子、岡田茉莉子が共演していながら、岡田茉莉子がそんな撮られ方をしているために、若尾文子が脇にまわっているように映っているのも興味深い、見どころのたくさんある映画。


サスペンス作家パトリック・クウェンティンの原作を脚色したのは…またもや新藤兼人。もしや、大映、新藤兼人の組み合わせが俳優たちの魅力を存分に引き出し、それぞれのmy bestを更新しているような気もしてきた。大映と新藤兼人の手のひらの上で転がされているだけなのか。

2016-07-17

河口



薄曇の土曜日、ラピュタ阿佐ヶ谷で、こちらの特集より、中村登監督「河口」(1961年/松竹)を。




宣伝文、ポスターに書いてあった。「才気と美貌の女性が男にみがかれた時…絢爛たる大都会に恋多き女は生きる!」主演は岡田茉莉子。


財界の大物の愛人だった岡田茉莉子が喪服で葬儀に参列し、愛人生活を清算した後の道行を海辺で回想する導入…という理解で合っているのだろうか。愛人面接(?)で、このような人生を選択するのは生活のため、家族を養うため、とキッパリ言ってのけた岡田茉莉子のポテンシャルに、財界の大物の金回り愛人まわりを管理する男・山村聰が目をつけ、愛人稼業から足を洗う決意をした岡田茉莉子に、では画商にならないかと新ビジネスを持ちかけ、銀座にギャラリーを構え、資金繰りのためか多情ゆえか岡田茉莉子は男に手を出し…という筋書き。


宣伝文句にある「絢爛」は岡田茉莉子の衣装(洋装は森英恵デザインと思われる)、絵画、銀座、京都、奈良と贅沢にロケで撮られた映画であるせいか。東野英治郎との追いかけっこで数寄屋橋界隈が映るのが楽しい。不二家は昔からあの場所にあったのだなぁ、など人物より背景がくるくる動くのが楽しくて注視。


しかし物語には、ぐわんぐわん振り回されているうちに終マークがどーんと出て呆気にとられた。岡田茉莉子の人物造形に迷いがあって、美貌と金を交換し画商稼業を渡り歩くドライな女になりきれず、男に対しても金づるにしたいのか、愛が欲しいのか、体が欲しいのか混乱している。大阪のおっさん(東野英治郎)を相手にする理由が「男の体が欲しかったのが半分」など言ってしまうし、貿易商(杉浦直樹)には純情なところも見せてしまうし、ただの面倒な女みたい。この古めかしいメロドラマっぽさは松竹らしいというか、大映で増村保造が撮ってたら。もしくは川島雄三、あるいは市川崑…。思い返してみれば、お焼香する岡田茉莉子の手の爪が、喪の場面に不似合いな艶やかなピンクに塗られていて、冒頭から主人公のよくわからなさ、言動の辻褄の合わなさは提示されていたのかもしれない。


ブレを感じるのは岡田茉莉子を中心に観るからで、相棒たる山村聰の視点で観てみると辻褄が合うのでは。鹿島茂の、確か「悪女の人生相談」という著作で、曰く男は2種類。モノを愛する男は女を愛さない。女を愛する男は他の女も愛する。という名言(迷言?)が登場した遠い記憶を思い出し、この映画の山村聰はモノを愛し女は愛さない男の典型、けっこうな美術オタク、絵なんて何もわからない岡田茉莉子に画商になるように仕向けるのだって、彼女を使って己の趣味と実益の両立を実現したい密かな野望のためだもの。そう考えると「男は仕事と恋愛を分けて考えられるけど、女はすべてを恋愛の延長上においてしまうからダメだ、けれど君は他の女とは違う!」とハッパをかけるのも、岡田茉莉子が男によろめくたびに、キーッ!脇が甘い!とあたふたするのも合点がいく。あたふたっぷり、アニメキャラみたいで可愛い。あー!いやだー!ってあたふたする山村聰のLINEスタンプ欲しい。


この時代の日本映画、もちろんそれ以前に比べると人物造形のバリエーションは豊かになったとはいえ、男は家庭を持ち家長的役割を担い、女は主婦多数、職業婦人少々、玄人少々といった配分で、この映画の家庭の香りの一切しない美術オタク・山村聰のようなキャラクターはとても新鮮。ブレてる岡田茉莉子より山村聰を楽しむ映画と言えるかもしれない。岡田茉莉子がよろめく男たちは総じて「女は愛する男は他の女も愛する」男たちで、そんな男たちとの間を飛び交っていた金が行き場を失った時、投げ棄てられた金はようやく画商ビジネスに向かい、万札の雨を浴びながらキャー!この絵も!あの絵も買える!と狂喜する電話の向こうの山村聰は性的興奮に近い何某かを味わう。呆然が去った後は、茉莉子、ほんまに面白い男は一番近くにいる聰はんやから余所見せんと聰はんの言うこととりあえず聞いとき。もっと商売うまいこといったらもっとまともな男が寄ってくるかもしれん、それまでは辛抱の子やで…河口で黄昏てる場合ちゃうで…と耳元で囁きたい気分に。


観る前、あらすじを読んだ時は有吉佐和子あたりの原作かと思ったけど、意外にも井上靖だった。原作では山村聰の役は性的不能という設定らしく、映画において何ひとつ語られない山村聰の私生活に岡田茉莉子がフフンという表情でツッコミを入れた時の尋常ではない慌てふためきっぷりは、その設定が背景にあったのだろうか。モノを愛する男は女を愛さない…の経緯がそんなところにあるとしたら、映画の味もまた変わりそうな。

2016-07-16

宣伝文案



ラピュタ阿佐ヶ谷へ、「河口」を観に行く。ここのロビーは広くてマルベル堂のスタアプロマイドなど並び、可笑しな音楽も流れて楽しい。早めに着いたので窓際の席で書きものをしていたのだけど、窓が大きく、自然光の入る席って集中もぼんやりも同時に叶って贅沢。





「河口」の…宣伝文案が書かれているからパンフレットではないのだろう。プレスシートかな。50〜60年代の映画の宣伝文句の大仰さ、たくさんの斜め!!、時代を感じてとても良い。「河口」のこの文案は、絢爛という単語から逃れられてなさが愛おしい。逃れられなくて、ひらがなにしてみるなどのアレンジ。最後のが一番映画に合ってて良いと思うのだけど、どれか採用されたのだろうか。男に燃え、男に冷え…!


映画の感想は後日。山村聰って「東京物語」の長男の印象が強いけど、実にいろんな映画でいろんな役を演じているなぁ。今、やまむらとタイプしたら予測変換のトップがまさかの山村聰だったので、我がmacの勉強熱心さ、飼い主の色に染まりますっぷりに頭が下がる思い。

2016-07-15

続・1本の映画のために



もらったばかりの玩具をあっけなく取り上げれた子供のような気持ちで、いきさつを読んだ。カナザワ映画祭で「牯嶺街少年殺人事件」の上映が中止になったらしい。


http://eiganokai.blog.fc2.com/blog-entry-621.html


「米国の権利者から上映許可をもらっていたのですが、先週の発表を受けて日本国内から横槍が入り上映ができなくなりました。どうもやはりBrighterにならない作品ですね。でも、いずれは、早ければ年内に日本で観られるかもしれません。」


金沢までの移動方法や、宿はどうしようなど考えてたのにな。何より、映画を観られないことが哀しい。映画好きの心理など察してもらえなさそうだけど、横槍を入れた誰かに主張したい。観客に観られてこそ映画、ではないかしら。



あまりに観ることが叶わず、あの映画の記憶自体が発酵しはじめ、遠距離恋愛のように、シンプルに相手を好きなのか、こんな遠く離れた場所で切ない愛を抱えている自分を抱きしめたいだけなのか、もはやよくわからない。



映画祭の時期に台北に行きたいと書いた翌日、思いがけず台湾のマンゴーをいただいた。作った人と思われる名前と、追跡番号のような数字が。もし食べて身体を悪くでもすれば、番号により追跡され、この名前の人が責任を問われるのかしら。陳宗徳さん、マンゴー楽しみにいただきます。この先お会いすることはなさそうだけど、あなたの国の映画はとても好きです。

2016-07-14

2016/7/14





築地の美味しそうなトンカツ屋の写真を見て、夏のうちに築地に行かなければと思う。ずいぶん前に詳しい人に連れて行ってもらった時は冬で、2粒をまとめて1粒として揚げているボリュームある牡蠣フライを食べ、華僑ビルという崩れそうに古い近代建築の中にある喫茶店で何かを飲んだ。どちらの店も、もうなくなったはず。東京の街の記憶は儚い。


銀座有楽町日比谷には毎週のように行きながら、その先には縁が薄く、映画の行き帰りもあまりウロウロしないので、新橋文化劇場には通っていたけど、駅前ビルに入ったのは去年が初めてだった。キャラクターの濃い店ばかり並ぶ中、不意にモンローやディートリッヒの写真が貼ってあったりして、店主が熱烈なファン、ということかもしれないけど、中国映画など観ていて、農村に暮らす青年の部屋の壁に酒井法子の写真が貼ってあったりするのを見かけると、とてもとても有名になるということは、遠い国の見知らぬ人々の行き交う壁に写真を貼られることなのだなぁ、それってどういう気分なのだろうか。そこで、いつも応援ありがとうございます♪と笑顔で言える人こそがスターになっていくのだなぁ、などよく分からない妄想をしたことを、新橋でも思い出した。

2016-07-13

一番の朝



新藤兼人部屋、かつ西川美和部屋であるところの、茅ヶ崎館、一番の部屋の朝。


電子読書「永い言い訳にまつわるXについて」読了。これまで買った電子書籍の中で、最も熱心に読んだ。読み応えあるエッセイが10篇300円というのは、気軽さの面でも満足度の高い300円の使い方だった。いずれあちこちに書かれた他のエッセイと合わせて書籍になってほしいけど、映画公開前にタイムリーに必要部分だけ電子書籍でさらっと発売されるのも、うまい宣伝と思う。小説も、撮影裏エピソード満載のエッセイも読み、準備万端というところだけど、映画の前にこれだけ情報が入ってるというのもどうかなと思いつつ、10月まで時間があるので、公開の頃にはうまい具合に忘れているだろう。



子役の演出について書かれた箇所。演出に葛藤する西川監督が、あの監督は子役をこうやって演出するそうだけど…と、師匠の是枝監督はじめ、いろんな監督の名前が挙がり、どの演出方法も誰にも似ていないその人独自のもので興味深い。最近亡くなったキアロスタミの演出にも触れられていて、まさに鬼畜の仕業!と呼ぶべき演出法だった。



映画を撮る人について飽きっぽい私が尊敬するのは、作る!と考え始めてから公開するまでの期間の長さ、その長きに渡って種々の専門スタッフを巻き込み、情熱が長く持続すること。「永い言い訳」は小説の書き始めから映画の公開まで3年半以上かかっている。人の気持ちなど容易に移ろうであろうそれだけの間、己の生み出した物語に執着して映画の形に仕上げるまで…が綴られて、そうやって生んだ物語との別れについても触れられている最後の1篇がとても素直だった。

2016-07-12

2016/7/12




紫陽花の退色、迫りくる真夏。歓迎。アイスを買い溜めしたら、冷凍庫の一段がコンビニのアイスケースのようになり、無闇に開け閉めしてニヤニヤしてる。ささやかな好きなものをたくさん買えるなんて、大人って素晴らしい。


濱口監督の「ハッピーアワー」、台北映画祭でかかってるらしく、台湾の人々の「日本人って本当に本音を言わないのね」とか「時間が長くてお尻が痛いけどその価値はあった」など感想をちらちら目にするのだけど、写真に写る、会場の建物が素晴らしくて調べた。


中山堂。1936年、日本統治時代の建物。ここで映画、観たい!

http://www.taipeinavi.com/play/438/


台北映画祭の会場は複数あるらしく、私の好きなタイの監督も招待されて写真がアップされていたし、中山堂にはジョニー・トーも来たらしい。暑い場所には暑い時期に行くのが好きだし、毎年この時期は仕事も落ち着き気味で、どうして自分はここにいないのだろう、という気分で指をくわえて写真を眺めている。映画旅の候補にリストアップ。


http://www.taipeiff.org.tw/

2016-07-11

電子読書




先日ここにメモした、七夕に発売された西川美和監督のエッセイ「永い言い訳にまつわるXについて」、発売日にダウンロード。ドライアイのせいか電子読書には今も慣れず、紙と電子両方あれば紙を選択しているけど、これは電子でしか発売されないのでやむなし。



http://www.j-n.co.jp/columns/?article_id=362


通勤電車で読み進めていると、「X=合宿」の一篇に、茅ヶ崎館について書かれているのを見つけた。脚本書きの大詰めの数日、師匠である是枝監督、若い演出助手たちと泊まり込んだエピソード。部屋割りは、是枝監督は小津部屋である2番、西川監督はやや小さめの隣の1番…こちらは新藤兼人が泊まった部屋、そして二間続きの広めの3番の部屋…ここは田中絹代が泊まったとのこと…は演出助手が待機しており、今でも手書きで脚本を書く是枝監督が2番で少しずつ書いた脚本は、3番に運ばれ、タイプしてプリントアウトされ監督に戻されるとのこと。


是枝監督も茅ヶ崎館に滞在することは去年、宿で教えてもらった。我々一行は大広間で大名のように大仰に食事をしたけど、監督はお一人の滞在だと思っていたので、食事もお一人なのだろうか…こんな広間で?と思っていたら違い、数人で何泊か合宿し、食事は歩いていけるところに食べに行き、最後の夜だけ、茅ヶ崎館名物のカレーすき焼きを是枝監督がみんなにご馳走してくれるのだそうだ。是枝監督、西川監督はそれぞれ自分の映画の脚本を書き、食事の際に互いの進み具合、つまづいたり直したり、という進捗を聞きあったりする、と。



お!と思ったのは、西川監督の泊まった1番の部屋に私も去年泊まったから。新藤部屋だと思っていたら、西川部屋でもあったなんて。あの部屋から生まれた「永い言い訳」、ますます楽しみに。茅ヶ崎館にまた是非行きたいと思っているのだけど、今年の夏は他に行くところも多い。夏でも浜辺にさして人は多くなく、長閑な海、烏帽子岩という眺めだけど、さらに人の少なそうな秋や冬に季節を変えて再訪してみるのも良いかもしれない。

2016-07-10

2016/7/10




週末学習。東大研究博物館のレクチャーシリーズで遠藤秀紀教授のお話を。鳥の体が飛ぶためにどのようなデザインを持っているのか、というテーマで冒頭、鳥の3種類の骨が回覧された。腰仙骨と私。驚くほど軽量で、飛ぶための工夫としての軽量化であり、そのように進化できたからこそ鳥が種として生き延びた、ということ。


「鳥の飛翔美 それは機能を独占した”かたち” かたちには強烈な意味があり、デザイン(意匠)として世に送り出される。」同じ日本語を話したとしても、専門分野によって使う言葉はまるで違う、ということがいつも興味深いのだけど、飛翔美、言葉は初めて目にして新鮮。洋服にしろ、インテリアにしろ、人間関係にしろ?まず造形として美しいことが前提で、なおかつ合理的であることが好きなので、私の骨好きの理由は、遠藤教授の言葉を引用すると「理と美」の共存、両立という言葉で説明できるように今のところ思う。


鳥が好きという理由ではないけど、ヒッチコックで特に「鳥」が好きで、考えてみれば60年代、あの映画の鳥はどうやって撮ったのだろう。一部が本物で大半は模型…?

2016-07-09

2016/7/9



フランス映画祭で会った韓国映画好きのお友達からおすすめしてもらった映画を観にレイトショーへ。おすすめの理由は、奈良で撮られた映画で、私が奈良出身だから。なのだけど、観た動機と同じ理由で観ている間の5割ぐらいは、奈良…奈良…!という高揚その他が入り混じりグラグラし、あまりに奈良らしい映画を観るとこんな気持ちになるのか…ほほう…と自分のグラグラを面白がりながら帰宅。思うところはいろいろあったので、またしばらくしてから。


東京では7/15まで
http://hitonatsunofantasia.com/

2016-07-08

2016/7/8




6月のカレンダー「最高殊勲夫人」だったのに半ばまでめくり忘れていて残念だったけど、月が変わってめくってみると、そこにも川口浩がいたので安堵した。「浮草」の一場面。


「浮草」の、2人の距離が近づく場面で、薄暗がりにいる川口浩を正面から捉え、しかし影に覆われて表情が見えず、輪郭だけが映るショット、観るたびにハッとする。この間「ハッピーアワー」を観ていて、純さんの暮らす部屋(いい部屋!)に、夫が約束なしに尋ねてきて窓辺に立つシーンに、同じような影のショットがあって、あ、「浮草」!と、ハッとした。

2016-07-07

七夕



「クリーピー」、いつ観よう?と決めかねていたら、黒沢清監督と前田敦子さんのトーク付き上映が催されると知って秒速で予約。「クリーピー」に前田さんは出ておらず、けれど「Seventh code」で監督&主演として組んでおり、日本の女優で一番好きなのが前田さんで、出演作の中でもとりわけ「Seventh code」好きなので、これは!と思った次第。


こちらに記事がさっそく上がってる!


http://natalie.mu/eiga/news/193780


クリーピーはこちら

http://creepy.asmik-ace.co.jp/


記事で触れられてないところでは、「クリーピー」について、前田さんが「車のシーンが可愛くて」と言うと、監督が「あのシーンをそんなふうに観てくれて嬉しい」と答えていらして、車のシーン、映画は虚構だなぁ。と思わされるファンタジックな撮影に見惚れたので、2人からコメントが聞けて嬉しかった。


サイン会にほぼ並ばないのだけど、映画もお話も楽しかったので上がったテンションのまま並んでみた。記事にもあるように、中国が絡んだ映画の企画で前田さんヒロインのものが流れたけど、今後また撮りたいと思っている…とリップサービス?かもしれないけどおっしゃってたので、「前田さんとの映画、楽しみに待ってます」と監督にお伝えしたら、「ええ…彼女は本当に素晴らしい…」と、にっこりと顔を上げて握手してくださいました。



映画の感想はまたいつか。滅多に会えない好きな人たちに会えた、七夕らしい佳き夜。

2016-07-06

1本の映画のために



1本の映画のために、どれほど遠くまで移動するかは人それぞれ線引きの異なることとして、約20年ぶりにスクリーンにかかる「牯嶺街少年殺人事件」を観るためだけに、金沢へ。というのは、待ち焦がれ度合、映画そのものの強度を勘案するに、近いね!と思う。これまでだって、数年前、パリのシネマテークでかかると聞けば、その日は少し悔しくてそわそわしていたのだもの。

9月、カナザワ映画祭でかかるそうです。早くスケジュールを知りたい。

http://eiganokai.blog.fc2.com/blog-entry-613.html

長らく上映されない背景には理由があるらしいことは、理解していたのだけど。今回何がどうクリアになっての実現なのだろう。

長い映画なので前後篇と分割して上映され、ブログにある「僕だけが君のこと、助けてあげられる」のセリフは前篇の最後の場面だったと記憶している。次に少女が言葉を発するのだけど、遠くに吹奏楽の練習音が聴こえるこの場面で、音が一斉に止む瞬間があって、精緻な計算のもともたらされたであろう一瞬の静寂に、鳥肌が立った。


あの少女は、古今東西のあらゆる映画の中でも遭遇するのは極めて難しい、「ファムファタール」と呼ぶのに相応しい振る舞いをしていたように思うけど、あまりに記憶が遠く、再見しない限り定かではない。

2016-07-05

Abbas Kiarostami



初めて観たのは確か「オリーブの林を抜けて」、無意識に買った映画祭のチケットで。振り返るとイランで撮られたものより、彼にとっての外国で撮られたもの、晩年の2作「トスカーナの贋作」、日本で撮られた「ライク・サムワン・イン・ラブ」がとりわけ好きで、特に「トスカーナの贋作」。


冒頭、作家の講演で語られる、本物と贋作について。そして作家と女性が、偶然知り合った他人同士のようにも、長く連れ添った夫婦のようにも見え、彼らが他人同士なのに夫婦を演じているようにも思え、そもそも夫婦って他人同士だねと思い出したりもして、最初から1つの不穏なメロディーが変化しながら最後まで鳴っているような構造に惹きつけられた。いくつかの言語が意図的に使い分けられていたようにも記憶している。いまいち魅力がわからなかったジュリエット・ビノシュが、私にとって最も美しく見えた映画でもあるのは、彼女の役柄に含まれた謎の分量のせいかもしれない。


「トスカーナの贋作」はフィルメックスで上映されたと初めて知った。その際のレポートを発見。


http://filmex.net/dailynews2010/2010/11/qa-3.html



訃報で初めて年齢を知った。順繰り順繰り死は誰にも等しく訪れるのだな。

2016-07-04

2016/7/4





いるかいないか曖昧にされているもの、ツチノコや河童など、らしきものをひょっと目撃してしまった人は、しばらくずっと「ツチノコ」とか入力して画像検索したりウィキペディアで調べたりするんじゃないか。と、濱口監督の映画を観た後しばらくは、あれは何だったのだろうか…と「濱口竜介 インタビュー」など打ち込んで、何かしら手がかりを探し回ったりするのじゃないかしら、私みたいに。


エドワード・ヤン「恋愛時代(原題:獨立時代)」を観て以来、あのような都市に暮らす男女の恋愛の絡む群像劇に、現代の日本映画で出会えないものだろうか、と無意識に探し続けていたように思うけど、夜中に「PASSION」を観ながら、今まさに目撃しているこれこそ、探していたそれであると気づくと呆然とした。「PASSION」がどんな映画か何も調べなかったし、調べてもあんな映画だとはどこにも書いてなかったのだろうけど、実に20年以上出会えなかったものに、不意に出くわして頭がぼうっとした。2008年に撮られていたのに、8年も見逃していた。



簡単にはかなわないだろうけど、今すぐにでも2度目を観たい。読み応えのあるインタビューはこちら。


http://www.nobodymag.com/interview/hamaguchi/index.php

2016-07-03

オールナイト





昨夜、観に行ったのは、濱口竜介監督オールナイト。新文芸坐で。
http://www.shin-bungeiza.com/allnight.html


あまりにオールナイトが久しぶりで少し身構えていたのだけど、ほぼ満席で、普段の新文芸坐より格段に若い観客が多く過ごしやすい。80代と思われる老婦人がお一人でいらしていたのが印象的。古い映画何本立てかではなく、気鋭の若手監督の映画を!しかもオールナイトで!なんてかっこいいのだろう。


「PASSION」は115分と普通の長さ、しかし「親密さ」は255分。それでも「ハッピーアワー」よりは短いね、と思ってしまう濱口映画鑑賞。さすがに「親密さ」は途中休憩を挟んでいた。演劇の上演に向けた準備期間の前半、そして後半は1つの演劇、カットなしで2時間ほどの演劇が全て映っている。演劇を飲み込んだ映画なので、これほど長い。


朝型人間の奮闘としては、「親密さ」の後半かなりうつらうつらしてしまい、半分も起きてなかったかな。「PASSION」は100%、「親密さ」は70%ほどの鑑賞となった。これまでのオールナイト参戦記録上、最も健闘したのは、やはり映画が予測不能な面白さで、何を観ているのだ自分は、と新奇な興奮があったから。前々日ぐらいから睡眠時間を確保できていれば、100%達成できたはず。「親密さ」、完全な鑑賞はできなかったけど、上映の機会をまた捕まえられたら、4時間以上をこの映画に献上しようと思える映画だった。できれば13時頃から始まって18時前に終わるようなタイムスケジュールでお願いしたい…。


「ハッピーアワー」のクライマックスが夜から朝にかけての時間にあるように、「PASSION」も「親密さ」もどちらもその時間が映っていた。そして「PASSION」はバスの、「親密さ」は電車と徒歩の映画だった。


だから映画館を出て6時前、池袋の路上に出て、来た時は黒かった空が白み、始発のガラガラのバスに乗り起動し始める東京を眺めていると、眠気も手伝って虚構の現実の境界が滲む。こんな贅沢ってあるかしら。さっきまで観ていた映画の中にいるみたい。

2016-07-02

2016/7/2


夏の陽気、今年初のノースリーヴ。低気圧が体に合わなくて、高気圧を熱烈歓迎。


銀座、資生堂ビル。吹き抜けが椿の形をしていて、下を覗きこむと警備員のおじさんも模様の一部みたい。



花椿ホールへ。フリーダ・カーロの遺品を撮った写真展開催中の石内都さん、mameのデザイナー黒河内真衣子さんの対談を聞きに。mameの洋服、好きで何着か持ってる。強いオーラのある女性おふたりのお話が面白くならないはずがない。けれど肝心の写真展、それから遺品を撮る石内さんを撮ったドキュメンタリーを見逃していて、アップリンクで再映があるらしいので、そこで観てから合わせて記録しようかな。石内さんのお話、ちょっと「FAKE」を思い出した。写真も創作であり、嘘が含まれるのだな、と思った。



資生堂ギャラリーで開催中の写真展はこちら。壁を色とりどりに塗ったのは、資生堂ギャラリー初の試みだったそう。石内さんが思いついて相談してみたら、やったことがないから、やってみましょう。というギャラリーが答えて実現したらしい。いいな。


https://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/


今日はこの後、ものすごーく久しぶり(10年ぶりぐらい?)に、オールナイトで映画を観る予定なのだけど、夕方、仮眠するつもりが、あれこれ予定が立て込んで無理だった。睡眠不足の中、あちこち移動して…今すでに眠くてどうしよう。朝型で夜に弱い私は、これまでオールナイトで眠らなかったことがないのだけど、意を決してチケットを買ってみたのは、それでも観たかったから。眠気が吹っ飛ぶぐらい映画が面白くて生まれて初めて最後まで起きてた…と朝日の中帰宅する自分をイメトレして、そろそろ家を出なければ。

2016-07-01

機器猫→ 哆啦A夢


仕事帰りに髪を切りに行ったら、美容師さんに1ヶ月ぶり…?7月?あ!今日から7月ですね…!!と言われ、7月になったことに驚きを隠せない人に髪を切ってもらった。私もちょっと驚きを隠せない。


私の手帳は見開き1週間の24時間バーチカル(30分刻みでメモリがあるもの)で、意識的に体調を整えるべく睡眠時間も記録するため24時間タイプにしているのだけど、ちょっとしたことも全部メモしておくのでぎょっとするぐらい書き込みが多く、打ち合わせでパッと開いたら目撃した人が、うへぇ…とげんなりすること多し。誰々にメールする、映画のチケット予約する、シーツを洗う、など細かい行動単位で書き出してto doリスト潰していくのが好きなだけで、たいしたことは書いていない。7月最初の今日、ドラえもん切手発売と手帳に書いてあったので過去の自分に指令され、昼休みに買いに行った。


52円と82円、どちらも可愛い!
52円のほうは「返事先取りポスト」「超速達切手」と手紙がらみのひみつ道具を繰り出してるのに、ドラミが「ドラミ」「ドラミとメロンパン」と手紙に関係なくマイペースに構えてるのが…いい!

https://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/stamp/tokusyu/2016/h280701_t.html


「STAND BY ME ドラえもん」を、中国にいる友達が観たよー!と、映画館にいる巨大ドラえもんに抱きつく写真と共に送ってきてくれたのだけど、写真に写る映画の広告を細かく見ると、「哆啦A夢」と書いてあって、どぅおーらーえーもん と読むのだけど、ドラえもんの中国名は「機器猫」じーちーまお、と覚えていたので、「え!ドラえもん、中国で改名したの?」と聞いたら、「今でも機器猫とも言うよ」と返ってきた。さっき調べてみたら、


藤子·F·不二雄病逝之後,朝日電視台繼承《哆啦A夢》的著作權,並依其遺願「希望亞洲地區統一改以日本音譯,使每個不同地方的讀者只要一聽就知道在講同一個人物」



藤子・F・不二雄が亡くなった後、テレビ朝日が著作権を継承し、「アジアでは日本語読み(ドラえもん)に統一して、どの場所であっても読者がドラえもんと聞くと同じキャラクターを思い浮かべるようにしたい」と希望したため、中国では音を当てて哆啦A夢になった…という経緯があったらしい。機器猫の、そのままやん!な機能説明的名称、好きだったけど、そんな理由があるならこれからは哆啦A夢と呼ぼう。


STAND BY ME哆啦A夢は中国大陸でもなかなかヒットしたらしく、アジアのドラ人気の高さよ…。私はまだ観ていないので、家のプロジェクターで3Dで観る方法を調べて、夏のアニメ祭として観ようかな。